石田 健

石田 健

株式会社マイナースタジオ代表取締役CEO。1989年生まれ、早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。 株式会社マイナースタジオを創業後に、同社を株式会社メンバーズ(東証二部)に売却。Twitter : @ishiken_bot

佐賀県武雄市の「武雄市図書館」が話題になってからしばらくが経過した。指定管理者制度を利用して、「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)が運営にあたり、代官山蔦屋書店をモデルにしたオシャレな内装や、コーヒーチェーン店「スターバックスコーヒー」が併設され、これまでの「古くさい」図書館のイメージを一新する試みとして賞賛されている。

一方で、図書館の役割を根本から問いかける部分において多くの批判にも直面した。そして、神奈川県海老名市は、新たに市立図書館を運営する指定管理者にCCCらを選定することを発表した。

神奈川にもツタヤ図書館

これによって、CCCは武雄市に続いて公立図書館を運営することとなり、市立中央図書館を改修した上で、カフェや書店を併置した新たな図書館が誕生する。指定は2014年度から5年間続き、初年度の指定管理料は約4億円強で、それ以降は年間約3億円となる。また、システムについて書籍にはタグを付与した上で、貸し出し・返却システムの効率化を図る。開館時間も年中無休の上で、午前9時から午後9時まで延長されることとなる。

現在のところ、武雄市図書館の評判は決して悪くない。当初目標に掲げていた「来館者年間50万人」は9月の段階であっという間に突破。若い世代が仕事帰りに利用するというこれまで図書館とは縁の遠かった人々にアプローチをすることに成功し、この取り組みを推進した樋渡啓祐市長もこうした成果に自身をのぞかせている。

こうしたCCCによる公立図書館の運営は、武雄市図書館の「成功」によって今後も増えていくと見られているが、果たしてこれはどういった意味を持つのだろうか?

新たな図書館の意味とは?

この問題は、図書館のあり方を広く問いかけることになったという意味では大きな価値を持っている。また単純に、これまで図書館を訪れなかった人々にアプローチしたことや、利便性の向上、快適な空間というメリットが大きかったことはすでに多くの人々に指摘されている通りだろう。県や市区町村、法人を併せた図書館の総数は、1990年に1950件だったものが現在は3000件を上回るほどに増加している。

多くの人々が公平に本を通じて文化や知識にアクセスできるという題目は素晴らしいが、一方で電子書籍などこれまでの「本」という概念が大きな変化を遂げる段階にきており、また自治体の財政が疲弊している中で、単純に図書館数を増やせば良いという問題ではなくなっている。その意味では、私企業の力を借りて、「多くの人々に愛される」図書館、あるいは「公共空間」をつくるというのは、順当な選択なのかもしれない。

問題点は?

こうした新しい図書館のあり方を模索する様々な試みは、1人あたりの図書館数が非常に多いドイツや、ヨーロッパで最大規模となるバーミンガム図書館のオープンでも話題になったイギリスでも進んでおり、日本だけの動きではなさそうだ。しかし、一方で武雄市図書館のあり方を批判する動きがあることも事実だ。その最も議論されたポイントの1つは、Tカード・Tポイント導入によって生じる個人情報の問題や行政が私企業のポイント制度の枠組みを受け継ぐという点だろう。

しかし、それ以外にもより広く「図書館とは何か?」あるいは「“行政が”図書館を運営する意味とは?」という点を問いかける問題もある。例えば、図書館内におかれた武雄蘭学館についてだ。同市は江戸時代の天保年間(1830〜45)に鍋島茂義らの牽引によって蘭学が盛んになり、オランダでつくられた地球儀や天球儀、施条カノン砲などが現在でも残っている。

これらを展示していた蘭学館は、TUTAYAの店舗となり展示場所は移転することになった。武雄市長は展示されていたのがレプリカであり史料自体を保存することが大事だと述べているが、これまでの展示に比べて史料へのアクセスが向上したのかについては疑問視する声もあり、「多くの人々が関心を持つのかは疑問」であるものは「文化・教育的価値の高いもの」であっても優先されないのではないか、という根本的な疑義が投げかけられた。

蘭学館の経緯については同市に対する公開質問状への回答において

しかし、その後、CCCからの提案を受けました。その内容は、蘭学館を、「映像と音楽のスペース」として使用したいと計画を提案され、今後、使用許可申請の手続きを進めたい旨の報告でありました。それを受けて教育委員会でも蘭学館の今後について、ご意見を伺いました。1

と述べられており、CCCからの提案によって既存の「蘭学館」が閉鎖されたことがわかっている。

また、今年7月の時点では来場者が4倍に対して、図書貸出数は2倍となっており、単純な「図書館」としての利用が反映されているのか疑問視する声もある。同市図書館では、漫画の貸し出しなどのサービスも7月から開始しており、もちろん漫画と書籍を比べることの是非やアニメ・漫画の文化的価値を議論することはさておいても、これを行政サービスの一環として特に注力すべきことなのか議論は尽きないだろう。

公共とは?

こうした問題を総合するならば、行政が提供する「公共」的なサービスとは何だろうか?という疑問だ。もちろん、サービスの受益者である市民の希望に添うことは大前提であるが、一方でその最大公約数的な要望を選択していけば、例えば「古くさい歴史史料」や「あまり読む人がいない分厚い本」が淘汰されていくであろうことは容易に想像がつく。もちろん、「何か重厚っぽい書籍を貸し出すことこそが文化だ」という主張には非常に恣意的な意図が介入することは事実であり、この問いかけに直ぐさま答えが出る訳ではないだろう。

しかし、こうした議論を捨て去って、「来場者が増えたのでわが町にも!」と次々とこうした図書館が乱立することは決してベストな状態とは言えないだろう。その意味で、神奈川県海老名市で新たにつくられる図書館のスタイルにも注目する必要があるとともに、今後の図書館、そして「公共の文化的サービス」のあり方について包括的な議論をおこなう必要があるのかもしれない。

Photo from Asacyan
  1. https://www.city.takeo.lg.jp/info/docs/20131021kaitou.pdf []