なぜYコンW17に「効果的利他主義ファンド」が選ばれているのか?

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石田 健

石田 健

株式会社マイナースタジオ代表取締役CEO。同社を創業後、2015年に株式会社メンバーズ(東証一部)に企業売却。早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。

シリコンバレーの最も著名なアクセレーターの1つ、Yコンビネーターの2017年冬バッチに、「Effective Altruism Funds(効果的利他主義ファンド)」が選ばれている。

最近のYコンのバッチには、いくつかの非営利団体が含まれている。2013年にポール・グレアムは「狭義の意味での投資と異なり、彼らに金銭的関心を持っているわけではなく、実験的な試みだ」と語っていたし、最近話題となったベーシック・インカムに関する実験など、彼らは非営利団体に関心を持っている。

その意味では、Yコンのバッチに非営利団体や寄付ファンドが参加していることは驚くべきことではない。

しかしここで出てくる「効果的利他主義ファンド」は2つの意味で興味深いため、簡単にそのことを紹介しておく。

「効果的利他主義ファンド」とは何か?

この「効果的利他主義ファンド(EAファンド)」とは、TechCrunchに記されているように「社会的プログラムのうち75%は、0かマイナスのインパクトしか生み出していない」ため、彼らが「地域でもっともポジティブな影響を持つ団体を見つけて、無料で寄付をおこなう」というファンドだ。

効果的利他主義とは、哲学者のピーター・シンガーなどが支持している考え方で、確かなエビデンスや理性に基づいて(時には直感的ではないことであったとしても)、最も効果的な寄付をすべきという思想だ。

一見すると当たり前のように見える話だが、批判にさらされることも少なくない。

例えば功利主義者のシンガーは、「身近な人々を助ける義務はあっても、遠くの国で飢えている人を助ける義務はない(軽くなる)」という一般的な直感を批判する。

寄付について「しないよりはした方が良い」と考える人は多いだろうが、シンガーの場合はそれを道徳的な義務として捉え、そこから「効果的利他主義」が導かれるため、彼の議論は政治哲学的にも興味深く、論争を呼び起こしやすい。

しかしそれはともかく、この「EAファンド」はあくまで非営利の寄付団体であり、なぜ営利団体であるYコンの支援先に選ばれたのかという疑問がある。

個人的には、それは2つの視点から考えることができると思っている。

1.シリコンバレーのトレンドに近い

1つは、このEAファンドの考えがシリコンバレーに近いことだ。実際に、効果的利他主義を支持する人々の中には、Facebookの共同創業者であるダスティン・モスコヴィッツも含まれている

シンガーがしばしば例に出すビル・ゲイツとメリンダ夫妻や、Facebookのマーク・ザッカーバーグとプリシラ・チャン夫妻も似たような考え方を持つビリオネアだと言える。

EAファンドのウェブサイトには、「規模の経済(economies of scale)」や、レバレッジを効かせることの重要性が語られているが、このあたりもシリコンバレーで好まれる考え方だ。

2.資本の再投資が新たな資本を生み出す

そして2つ目は投資という観点に立った時に、「余剰資本の再投資」こそが資本主義の源泉であるためだ。

帝国主義の時代、余剰資本はその投資先を植民地に求めたが、現代においてそれは、資本主義がこれから大きく育つ空間にあると言える。

資本を効率よく動かし、最大限のレバレッジを効かせるためには、新たなマーケットを育てる必要がある。ドゥルーズ=ガタリ風に言えば脱領土化・再領土化ということになるのかもしれないが、これは普遍的な資本主義の論理といえるだろう。

しかし現代において、余剰資本の再投資がおこなえる空間はそれほど多くない。インターネットという新たな産業が成熟化したことで、資本は既に存在している物的資本・人的資本の流動性を高める方向に向かっている。

このトレンドがおそらくシェアリングエコノミーなのだろうが、それ以外に再投資の機会を求めるならば、そもそも新たな国や地域でマーケットを立ち上げる必要がある。

Yコンがそれを意識しておこなっているのか、あるいはシンガーのように道徳的な義務としてEAファンドを支援しているのかは分からない。

しかし、FacebookやGoogleが資本主義のフロンティアを求めて国境を超えているように、彼らがもっともレバレッジの効くマーケットを育てるため、効果的利他主義に投資していると考えることは、それほど不自然ではないだろう。