ケチヲ

都内大学院に在籍中、社会学を専攻する。男性のジェンダー・アイデンティ形成に関する研究をおこなっているが、HIPHOPも愛して止まない。

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編集部注:前回、都内の大学院で社会学を専攻するケチヲ氏が男子校に関する興味深い論考に引き続き、ヒップホップに関する記事を寄せてくれたことを覚えているだろうか?どうやら彼のヒップホップへの愛はとどまることを知らないようだ。今回の記事も興味深いテーマを切り口として、興味深いカルチャーについて紹介してくれている。ヒップホップ好きならずとも要チェケラだ。

 

日本におけるヒップホップのシーン

TBS『リンカーン』の一コーナー「ウルリン滞在記」にて、お笑い芸人中川家剛がラップグループ「練マザファッカー」に弟子入りし、ラップを勉強する という企画があった。テレビ番組、それも地上波でこれほど多くのラッパーを 見る機会もそうそうない。正直そのくらいの知名度だろうし、そのくらいの関 心なのだろう。ヒップホップ発祥の地であるアメリカと比べてしまえば、その 認知度は(ジャンルの認知度はともかく)その程度だろう。

そもそも、ラッパーと言われてどんなアーティストを思い浮かべるだろう。 KREVAや彼の在籍したKICK THE CAN CREW、RIP SLYME、m-flo、Dragon Ash1、スチャダラパー、ケツメイシ、ヒルクライム、HOME MADE 家族、 FUNKY MONKEY BABYS、SEAMO、SOUL’d OUT、Nobodyknows+などな ど。それなりに知名度があるだろうグループや人物を列挙してみたが、彼らは 比較的「メジャー」で「オーバーグラウンド」な存在だといえるだろう。彼ら の活躍はおそらくヒップホップにさほど興味の無い人の耳目にも触れ、広範な リスナーを獲得しているものだろう。ともすればJ-POPの一種としてひとくくりにされている部分もあるかもしれない。

しかし、こうした「メジャー」「オーバーグラウンド」だけがヒップホップ ではない。こうしたアーティストの音楽は素晴らしいが、一方で「マイナー」 「アンダーグラウンド」とされるような極もヒップホップシーンには存在す る。先述のKREVAやRHYMESTER、ZEEBRAなどは名声を勝ち得てもこうし たシーンの両極に目を向けている存在なのではないだろうか。実際、フィーチ ャリングなどにそうした動向は見て取ることができる。

このように「メジャー/マイナー」「オーバーグラウンド/アンダーグラウン ド」という極で名目上アーティストを区分してみたのは、日本のヒップホップ シーンの広がりを示したかったからである。ロックなどのバンドミュージック に「メジャー/インディー」のようなシーンがあるように、ヒップホップにもそ うしたシーンが存在し、そこには裾野が広がっているのである。 もちろん、頂点をどこに据えるのかについては議論の分かれるところだろ う。商業的成功2、ラップのスキル、曲のクオリティ、メディアへの露出度、様 々な基準が考えられる。いずれにせよ、こうしたことで様々な意見が出てくる のは実際にシーンに参加する人間が一定数いるからこそであり、それを消費する人間がいるからこそだろう。

では、それは誰なのだろうか。この記事ではBSスカパー!『BAZOOKA!!!』内で放送された「BAZOOKA!!!高校生RAP選手権」を事例に、日本のヒップホップカルチャーの次世代を担うであろう若者のあり方を概観し、このカルチャーの裾野を垣間見ることとしたい。

 

『BAZOOKA!!!』高校生RAP選手権って?

はじめに、『BAZOOKA!!!』がどのような番組なのか簡単に説明しておく ことにしたい。この番組は2011年からスタートした、小籔千豊と真木蔵人を MCとする「本気で世の中にぶつかるエッジでラジカルなドキュメントバラエ ティ」である。3

この番組のコーナーの一つとして2012年7月23日に行われたのが「高校 生RAP選手権」第一回大会(http://youtu.be/YZuBRC9QeKg)である。同じ年の 10月22日に行われた第二回大会(http://youtu.be/2XZfWFxosI0)まではスタジ オで行われていたのだが、続く2013年3月23日の第三回大会 (http://youtu.be/ yutNU9KOVBg)は恵比寿LIQUIDROOM、そして去る9月21日の第四回大会(http:/ /youtu.be/COkbC6upL-o)は赤坂Blitzを会場に番組主催イベントとして行われ た。これにあたり、各地方での予選も行われたという。また、第三回にはSIMI LAB、鎮座DOPENESS4、AKLO、SALU、ANARCHY、第四回にはSEEDA、 D.O5、MC漢、SIMI LAB6、DARTHREIDER7といったヒップホップ・アーテ ィストによるゲストライブも行われている。ちなみに、第一回からの審査委員 はZEEBRA(審査委員長)、DABO、SIMONである。

上記の動画を見ていただけるとわかると思うが、この大会はフリースタイル (即興でのラップ)により相手をDISして戦うMCバトルの大会である。少し 試していただければわかると思うが、これはなかなか難しい。韻を踏んで、ビ ートに乗って、なおかつ的確なDISをした上で観客にまでアピールしなければ いけない。大会出場者である高校生たちは複数人で交代しながらフリースタイ ルをし合う「サイファー」などで歌詞やライムの腕を磨いているのである。

 

で、誰がやってるの?

ところで、この大会の興味深いところは毎回各出場者の紹介VTRが流れると ころである。テレビ局が主催するからこそなされる演出だろうが、ここに映し 出される出場者の多様なバックボーンこそ、今回の主旨である「ラップしているのは誰なのか?」という疑問に対するひとつの答えである。

結論を先取りするなら、「いろいろな人がやっている」と言えるだろう。歴 代チャンピオンを見てみよう。第一回・第四回チャンピオンのT-Pablow(元K-九)は神奈川県川崎市出身で、いわゆる地元で有名な「札付きのワル」であ る。彼は中学3年時の訪れたニューヨークでヒップホップに出会って以来、地 元の友人と腕を磨き合っているという。第二回チャンピオンのKay-onは大阪 府中央区出身の在日韓国人3世であり、小学校6年生からリリックを書き始め たという。アフリカ系アメリカ人としてラップしていた2PACに自身の境遇を リンクし感銘を受けたという彼は、差別や偏見を無くすという夢を持ってい ると語っている。第三回チャンピオンのHIYADAMは北海道札幌市出身で、母 親の影響でヒップホップを聞いて育った。彼は第三回大会優勝の後、戦極MC BATTLE8にも参戦している。彼らだけ見ても、そのバックボーンはバラバラで ある。

他の参加者も実に多様である。10歳で自閉症を宣告され引きこもりになって いたのをヒップホップとの出会いによって救われたGOMESS、ももクロのフ ァンで平塚観光特別大使も務めるMC妖精、県内有数の進学校出身でニコニコ 動画にラップを投稿しSkypeで全国のMCとフリースタイルの腕を競うネットラ ッパーの秋影、CD屋もなければ電車の乗り方もわからないような長野の田舎 から出てきたMC☆ニガリなど、実に個性的である。このほか、女性やハーフ、 少年院あがりなど、さまざまな背景をもつ高校生9たちが北は北海道、南は沖縄と全国から参戦しているのである。

 

垣間見えたものから

今回、「ラップしているのは誰なのか?」という大きな問いに「高校生 RAP選手権」という僅かな、しかし次世代を担うであろう若者の事例から日本 のヒップホップカルチャーの裾野を垣間見てきた。バラエティ番組の一企画と いう側面は念頭に置くべきだろうが、日本におけるヒップホップカルチャーを 紹介した点ではYouTubeの再生回数10を見ても大きな役割を果たしていると思われる。

この記事を締めくくるにあたり、垣間見えたものから筆者が考えたことをいくつか書き連ねてみたい。まず思うのは、日本におけるヒップホップの浸透度 合いである。無論、局所的な可能性は否めないし、他のカルチャーと比較すれ ば最初に書いた通り大した関心は向けられていないのかもしれない。とはいえ、全国津々浦々から様々な若者を集めることができたという点において、一 定の評価はなされるべきだろう。実際、ZEEBRAやDARTHREIDER、宇多丸ら がこの大会に下す評価11は肯定的な賛辞であるといえよう。一方で「フリース タイルバトルだけでは食べてはいけない」とZEEBRAが語るように、厳しいシ ーンの現状もあるのは事実である。

また、日本のヒップホップカルチャー参加者のさまざまな位相についても目 を向けざるをえないだろう。ヒップホップはその歴史においてアメリカの社会 構造の様々な問題(人種、性別、ドラッグ、ギャング、貧困etc.)を内包して いた。日本では1980年代から少しずつ受容が始まったヒップホップだが、先に 見たKey-onの語る在日問題が象徴するように、日本のシーンにおいてもさまざ まな社会問題を内包し、そうした問題の下にある若者がヒップホップに何らか の希望を仮託する側面はあるのかもしれない。実際、ある種の「クレイム申し 立て」活動12の役割を持つような作品がさまざまなヒップホップ・アーティス トによって生み出されているのである。

個人的には前者については一ファンとして、後者については学問を志す身と して、引き続き目を向けていきたいところである。この記事も何かを考えるき っかけになれば幸いである。

 

Photo from Flickr

  1. Dragon Ashについては基本的にヒップホップではなくミクスチャーに分類さ れる。またキングギドラ「公開処刑」においてkjが名指しで批判された経緯を 考えると、彼をラッパーと呼ぶべきか考えが分かれるところである。 []
  2. これについては「セルアウト」に対するアングラシーンからの批判などがある []
  3. http://www.bs-sptv.com/bazooka/ []
  4. SIMI LABのMARIAと鎮座DOPENESSは第三回大会の審査員も務める []
  5. 先述の練マザファッカーの中心人物である []
  6. SIMI LABのMARIAとMC漢は第四回大会の審査員も務める []
  7. 彼は第一回大会からレフェリーを務めている []
  8. 2007年から行われていた戦慄MC BATTLEを前身に、2012年から埼玉県浦和BASEで行われているMCバトルの大会。有名MCも多く参戦している。余談だが、この他にも国内最大級の大会であるULTIMATE MC BATTLEやKREVAが3連覇したB-BOY PARK MC BATTLE、大阪のENTER MC BATTLE、かなり過激なTHE罵倒、変わり種ではFruit Ponchiなど、様々な大会が存在する。参照:http://freestylemcbattle.jimdo.com/ []
  9. 正確には高校中退や中卒の参加者もいる []
  10. 今回参照した動画については以下の通りである(2013年11月7日2時35分閲覧)。第一回大会:1525398回、第二回大会:971715回、第三回大会:54798回、第四回大会:208386回 []
  11. ZEEBRA:(http://realsound.jp/2013/09/zeebrarap_2.html、http://realsound.jp/2013/09/zeebra.html)DARTHREIDER、宇多丸:(http://miyearnzzlabo.com/archives/16062、http://miyearnzzlabo.com/archives/16064) []
  12. Kitsuse, J. I & M. Spector, 1987, Constructing Social Problems, Aldine de Gruyter.(=1990,村上・中河・鮎川・森訳『社会問題の構築——ラベリング理 論をこえて』マルジュ社) []