修士論文が元になった瞠目すべき学術書6選

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文系の研究者にとって修士論文は特別な意味を持つ。なぜなら、わが国の文系大学院で博士論文を書くのは非常に大変なので、博士論文を在学中に執筆せず、修士論文が人生で最後の学位論文となる場合も多いからだ。

理系と違って文系の博士課程は3年間で卒業できない場合が大半で、博士論文を書かないうちに大学院を出てポスドクや助手になるというケースも少なくない(もっとも、最近は研究者間の国際交流が盛んになり、博士号を取得しておいた方が都合のよいケースも増えてきたので、文系でも在学中に博士論文を書く研究者は増えてきている)。このため、巷では「修士論文の出来がその後の研究人生を左右する」とまで言われることすらある。

そんな修士論文は通常、改稿してから学術雑誌に掲載される場合が多いのだが、中には修士論文を書籍化してしまう強者もいる。本誌では世の中にもっと文系の研究を知ってほしいと考え、今回、修士論文が元になった学術書を6冊ピックアップしてみた。

1. 古市憲寿『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』

最近、「コミュニティ」や「居場所」は、若者や生きづらさを抱えた人を救う万能薬のように語られることが多い。しかし、それは本当なのか。本書は、「世界平和」や「夢」をかかげたクルーズ船・ピースボートに乗り込んだ東大の院生による、社会学的調査・分析の報告である。なんらかの夢や希望をもって乗り込んだはずの船内で、繰り広げられる驚きの光景。それは、日本社会のある部分を誇張した縮図であった。希望がないようでいて、実は「夢をあきらめさせてくれない」社会で、最後には「若者に夢をあきらめさせろ!」とまで言うようになった著者は、何を見、何を感じたのか。若者の「貧しさ」と「寂しさ」への処方箋としてもちあげられる「承認の共同体」の可能性と限界を探っていく。解説と反論、本田由紀。

[引用元:光文社

2. 荒井悠介『ギャルとギャル男の文化人類学』

君たちは何者か? 一体、何をしているのか? 目的は何だ――。渋谷に生息する、「謎の部族」をフィールドワーク。
真っ黒な肌、奇抜なメイクにド派手なファッション。ストリートにたむろし、クラブでパーティー――。日本を席巻し始めたギャル文化の象徴「イベサー」を、かつて集団のトップを務めた男がフィールドワーク。数百人のギャルの肉声から、現代の「未開の部族」の内面に迫る。「やっぱり礼儀と学歴は大事」「いかに早く遊んで落ち着くか」など、その奔放なセックス観から意外に保守的な未来像まで、彼らの素顔を大解剖。

[引用元:新潮社

3. 開沼博『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』

“大文字” 言葉で書かれたものばかりの 「原発本」 の中で、福島生まれの著者による本書は、郷土への愛という神が細部に宿っている。―― 佐野眞一

原子力ムラという鏡に映し出される戦後日本の成長神話と服従のメカニズム。本書の刊行はひとつの奇跡だ。―― 姜尚中

原発は戦後成長のアイコンだった。フクシマを生み出した欲望には、すべてのニッポンジンが共犯者として関わっている。それを痛切に思い知らせてくれる新進気鋭の社会学者の登場!―― 上野千鶴子

【第65回 毎日出版文化賞受賞】 [人文・社会部門]

[引用元:青土社

4. 石橋悠人『経度の発見と大英帝国』

イギリス経緯度委員会は経度測定を技術革新、冒険、賞金、名誉獲得の舞台に変えた。

[引用元:三重大学出版会

5. 田崎英明『夢の労働 労働の夢 フランス初期社会主義の経験』

労働者たちが、物質的な貧困からの解放だけでなく、文学や芸術をも他者との交通回復に不可欠の手段としたフランス初期社会主義の実験。労働のイメージを変え、自由な協同を訴えたその試みをよみがえらせる、新鋭による意欲的な論考。

[引用元:青弓社

6. 小熊英二『単一民族神話の起源 「日本人」の自画像の系譜』

サントリー学芸賞受賞
大日本帝国時代から戦後にかけて,「日本人」の支配的な自画像といわれる単一民族神話が,いつ,どのように発生したか。民族の純血意識,均質な国民国家志向,異民族への差別や排斥など,民族というアイデンティティをめぐる膨大な言説の系譜と分析。

[引用元:新曜社

いかがだっただろうか。専門外の人でも気軽に読めそうなものから、かなりヘビーなものやマニアックなものまで、内容は千差万別だ。もし上に紹介した中で気になった本があれば、ぜひ手に取ってみてほしい。

おおむね25歳前後の「若者」が全力を注いで書いた本に触れることによって、文系の研究が少しは身近に感じられるかもしれない。

Via :commons.wikimedia.org