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深い遺恨:オデッサの虐殺

編集部注:本記事は翻訳家・平井和也氏の寄稿。同氏は、人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳をおこなっている。

4月15日についにウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力がウクライナ東部ドネツク州のクラマトルスクで武力衝突し、ウクライナ情勢は新たな局面をむかえたが、5月2日には今度は南部のオデッサで惨劇が繰り広げられる事態となった。この日の衝突でウクライナ暫定政権支持派が親ロシア派を焼き殺すという残虐な行為が行われたのだった。

この2日の惨劇の詳しい内容について、第四インターナショナル国際委員会が運営しているウェブサイト「The World Socialist Web Site」に5月3日に掲載された記事を以下にまとめてみたい。

ウクライナ暫定政権支持派による放火で親ロシア派に38人の死者

極右集団に率いられたウクライナ暫定政権支持派の勢力は2日(金)、欧米の支援を受けている暫定政権に反対する親ロシア派が占拠していた南部オデッサの労働組合会館に放火し、親ロシア派に38人の死者が出ている。

この惨劇は虐殺としか言いようがない。目撃者の証言によると、燃え盛る建物の窓から飛び降りて難を逃れた人たちは、ネオナチ集団である右派セクター所属の暴漢に囲まれて暴行を受けたという。右派セクターは民族主義政党スヴォボーダ(全ウクライナ連合「自由」)と共にキエフの暫定政権に加わっている。

今回の蛮行は、欧米の支援によって樹立されたウクライナの極右政権とその支持勢力の非道さを物語っており、暫定政権はウクライナ東部と南部に住んでいる親ロシア派の人たちの抗議運動を武力で制圧し、流血の事態を引き起こしている。

ウクライナ暫定政権による武力攻撃を明確に支持したオバマ大統領

オデッサの惨劇が繰り広げられる中で、ホワイトハウスで行われたドイツのメルケル首相との共同記者会見で米国のオバマ大統領は、ウクライナ東部で政府庁舎を占拠している親ロシア派に対するウクライナ暫定政権による武力攻撃を明確に支持した。

欧米メディアはオデッサで何が起こったのか隠そうとしているが(複数の報道で、一連の出来事については依然として不明と伝えられている)、オデッサの虐殺が右派セクターの記章を着けた暴漢によって扇動されたものであることは間違いない。労働組合会館に放火したのはキエフの暫定政権を支持する一団だった。

彼らはクリコヴォ広場の建物の前で何週間にもわたって抗議活動を行っていた親ロシア派の活動家の仮設野営テントを取り囲んで火を放ったのだった。

建物が炎に包まれている時、窓から身を乗り出して、窓敷居に座って下に飛び降りようとしている人たちの画像がいくつもツイッターに掲載されていた。

また、燃え盛る火事を喜ぶ暫定政権支持派の様子を写した画像もあり、中には「コロラドハムシ(ジャガイモの害虫)がオデッサで焼かれている」という差別用語を含んだツイートも見られた。この差別用語は、大祖国戦争(第二次世界大戦)の対ナチスドイツ戦での勝利を記念したロシアの愛国の印であるゲオルギー・リボンを着けた親ロシア派の活動家を侮蔑した表現だ。

ゲオルギー・リボンの画像:

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Photo : Twitter

ウクライナ政府当局の発表:死者43人、負傷者174人

この火事の被害者のうち30人が建物の床に倒れている状態で発見され、その死因は明らかに煙を吸い込んだことによる窒息死だった。さらに、地元の警察によると、8人は炎から逃れようとして窓から飛び降りたことによって死亡したということだ。ウクライナ政府当局の発表では、死者数の合計が43人、それ以外に174人の負傷者が出ており、そのうち25人がいまだに重体となっているという。

今回の蛮行は、約1,500人に上る暫定政権支持派の人たちがオデッサ中心部のソボルナヤ広場に集結した時点で始まった。鎖、バット、盾で武装した暫定政権支持派は街をデモ行進しながら、口々に「ウクライナに栄光を」、「敵に死を」、「モスカーリ人(ロシア人の蔑称)をナイフで刺し殺せ」というシュプレヒコールを叫んでいた。

オデッサは二月のクーデター以来、抗議デモが行われている南東部の都市の一つだ。三月の下旬には何千人もの人たちが集会を開き、クーデターによって樹立された暫定政権の正統性に対する抗議を行い、自治を問う住民投票の実施を訴えている。

ウクライナ政府軍の本格的な武力行使で最も多くの死者を出したオデッサの虐殺

今回のオデッサの虐殺は、米国のオバマ政権からの働きかけによりウクライナの暫定政権が反政府活動に対する本格的な武力行使に乗り出して以来、最も多くの死者を出したケースだ。

暫定政権のトゥルチノフ大統領代行は2日(金)、東部ドネツク州のスラビャンスクで政府軍による攻撃で多くの分離主義者が亡くなったと述べている。

暫定政権の高官の声明によると、ウクライナ政府軍は夜明け前に始まった作戦で130,000人が住むスラビャンスクを取り囲む反政府勢力の検問所を制圧したとしており、スラビャンスクは「厳重に包囲されている」ということだ。

政府軍は武装ヘリコプターを使っての攻撃を展開したが、現地の反政府勢力の抵抗で作戦は思うように進まなかった。午後の早い段階で、ウクライナ政府軍はビルバソフカ村とアンドレーフカ村で進行を止められた。住民が前線に群がり、政府軍の兵士に対して戦いをやめるように促したからだ。アンドレーフカ村では、約200人の住民が人間の鎖となって武装した兵員装甲輸送車とトラックの進行を止めた。また、ビルバソフカ村では住民が「恥を知れ!」と口々に叫んでいた。クラマトルスクでは住民が路面電車やトロリーバスで道を封鎖し、政府軍の侵入を防いだ。

ロシア軍の関与を主張するオバマ大統領

ドイツのメルケル首相との共同記者会見の中で、米国のオバマ大統領はウクライナ軍の二機のヘリコプターが地上からの攻撃を受けたという報道に触れた。

オバマ大統領は、そのうちの一機が赤外線追跡型対空ミサイルを撃ち込まれたというウクライナ保安局(SBU)の未確認情報を挙げ、それはロシア軍が関与している証拠だと主張した。しかし、夜のメディア報道では『ニューヨーク・タイムズ』が、赤外線追跡型対空ミサイルが使用された証拠は見つかっていないことを伝えている。

このようなオバマ大統領の主張と並んで、同大統領がウクライナ軍による攻撃を支持していることは、欧米が同国の内戦状態を作り出し、プーチン政権を東部への軍事介入へと駆り立て、経済制裁を破綻させ、NATOのロシアとの対決を鮮明にするための口実を作ろうとしていることを表わしている。

米国政府はウクライナ暫定政権が本格的な攻撃から身を引いたように見えた数日後に、さらに攻撃を再開するように要求し、少なくとも17の都市と町に広がった政府庁舎占拠をやめさせるのは「無駄な努力だ」と主張している。

米国、EU、ウクライナ間の和平協定の破綻

ロシアのプーチン大統領は二週間前に米国、EU、ウクライナの三者間でいわゆる和平協定を結ぶことによって、米国主導の動きに機先を制しようとした。

それは政府庁舎の占拠をやめさせ、軍事的な制圧計画を停止するためのものだった。しかし、この協定はウクライナ暫定政権とその支持派によって却下された。ロシア大統領府の報道官は、ウクライナ軍による「懲罰作戦」によってこの協定が破綻したと述べている。

ロシアはウクライナ暫定政権による武力行使を非難し、2日(金)に緊急の国連安全保障理事会の会議を開催するように要求した。ロシアのヴィタリー・チュルキン国連大使はこのまま軍事作戦が続くとしたら、「壊滅的な結果」を招くことになると警告を発していたが、米国のサマンサ・パワー国連大使はその主張を非難し、ウクライナ軍の攻撃について「適切で理に適ったレベル」のものだと主張している。

不安定化の原因はロシアにあると断言するサマンサ・パワー米国連大使

「人権」や「民間人の保護」という名目でリビアをはじめとした世界各国における米国の軍事介入を支持することで名前が知られるようになったパワー国連大使は、ロシアがウクライナで進行する不安定化を懸念していることは「皮肉で不誠実」な態度だと述べている。

パワー国連大使はウクライナ危機が始まった当初から米国政府の宣伝に歩調を合わせており、大胆にも不安定化の原因はロシアにあると断言している。

二月にキエフで起こった民族主義者過激派によるクーデターを陰で工作していたのは米国とその同盟国、特にドイツ政府であり、欧米はその後ロシアがとった行動とウクライナのロシア系住民を利用し、ロシアがウクライナを恫喝しているとして非難している。

欧米は暴力的で準軍事的な作戦を実行することによって、キエフの暫定政権を樹立するのに50億ドルもの資金を費やし、今は具体的な証拠の提示もないまま、ロシアの方が今度は裏工作を行っていると非難している。

先月始まったウクライナ軍による攻撃は米国中央情報局(CIA)のジョン・ブレナン長官によるキエフへの極秘訪問の直後のことだった。また、それに続く攻撃作戦はジョセフ・バイデン米副大統領による訪問の後だった。

米国のグレイストーンがウクライナ軍に加勢していると主張するロシア外務省

実際、米国が介入していることを表わす証拠もある。ロシア外務省は、2日(金)にスラビャンスクで展開されたウクライナ軍による攻撃の際に英語を話している外国人が見つかったと発表しており、米国の民間軍事企業であるグレイストーンがウクライナ軍に加勢しているという以前からの主張を繰り返している。

米国の作戦は、5月11日にドネツク州で予定されている親ロシア派による独立の是非を問う住民投票を妨害することを目的としているように思わせる節がある。さらに、欧米は5月25日に予定されているウクライナ大統領選挙について、クーデターによって樹立されたキエフの暫定政権に正統性を与えるための手段になると考えている。

25日の大統領選挙で最有力候補とされている大富豪の寡頭資本家(オリガルヒ)であるペトロ・ポロシェンコ氏は、ウクライナのNATO加盟およびEUとIMFによる管理を支持している。

しかし、暫定政権が東部の親ロシア派による混乱を収拾することができていない中で、米国は対決の構図を煽り、ロシアがウクライナ大統領選挙の準備を妨害していると批判の矛先をロシアに向けたいと考えているように見える。そんな中、軍事演習という名目で米軍がラトビア、リトアニア、エストニアのバルト三国とポーランドに駐留しており、NATO軍がロシア国境まで近づいている。

米国のFBIとCIAがウクライナ暫定政権の助言役

以上が「The World Socialist Web Site」掲載記事のまとめだが、上にご紹介した記事の後半部分で、米国中央情報局(CIA)のジョン・ブレナン長官によるキエフへの極秘訪問とジョセフ・バイデン米副大統領による訪問について触れられている。

CIAの関与については4月19日の拙稿「ウクライナ暫定政権の決定に大きな影響を与える米CIA 」の中で詳しく書いたが、米国の情報機関の動きについてThe Voice of Russia(ロシア国営ラジオ「ロシアの声」)が5月4日に新たな情報を報道しているので、以下にその内容についてまとめておきたい。

ウクライナ暫定政権の決定に大きな影響を与える米CIA

ドイツの新聞『ビルト』が匿名の政府高官からの情報として、米国連邦捜査局(FBI)と米国中央情報局(CIA)の何十人もの職員がウクライナ南東部の連邦制支持者の制圧について暫定政権に助言していると報じている。

FBIとCIAの工作員がキエフで特別任務にあたっており、暫定政権が南東部の混乱を鎮め、実効的な法執行機関を創設することができるように助力している。

『ビルト』紙によると、FBIとCIAの工作員が連邦制支持者の反乱鎮圧に直接関与しているわけではないが、彼らはキエフから出てはおらず、ウクライナ当局による組織犯罪の取り締まりについても助言を行っているという。FBIの専門家は、ウクライナの捜査当局によるヤヌコビッチ前大統領の資産調査を手助けしている。

米国務省は当初、FBIはウクライナの捜査当局による詐欺事件の調査と、国外に不法に持ち出された資金の返還に必要な証拠集めに関わることになっていると発表していた。

先月半ばにCIAのジョン・ブレナン長官がキエフを極秘訪問しているが、米国政府は当初はこの事実を否定していた。その翌日、ウクライナ最高議会のアレクサンダー・トゥルチノフ議長(大統領代行)は、南東部での大規模な対テロ作戦の実施を発表している。

ロシアは米国がウクライナの内政に干渉しているとして繰り返し非難している。一方、米国はウクライナの民族主義者を支持する考えを公然と明らかにしており、二月のクーデターと暫定政権樹立を歓迎している。過去数ヶ月の間に、ジョセフ・バイデン米副大統領を含めた多くの米国政府高官がウクライナを訪れている。

米国のオバマ大統領がウクライナ暫定政権による武力攻撃を明確に支持し、またFBIとCIAが暫定政権に助言を行っているという中で、はたして5月11日のドネツク州での住民投票と5月25日のウクライナ大統領選挙が無事に行われる運びとなるのか、その成否は今後のさらなる武力衝突の可能性にかかっていると言えるだろう。

【参照記事】

The World Socialist Web Site: Washington responsible for fascist massacre in Odessa

The Voice of Russia: Dozens of FBI, CIA officers consulting Kiev government -reports

Bild: Agenten von CIA & FBI beraten Kiew

Photo : Twitter

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Kazuya Hirai

Kazuya Hirai

平井和也 | 1973年生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。人文科学・社会科 学系の翻訳者(日英・英日)。F1好き。 Twitter:@kaz1379/ブログ:http://entrans221.blog38.fc2.com/