エネルギーの輸入に依存する欧州のジレンマとは?

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Kazuya Hirai

Kazuya Hirai

平井和也 | 1973年生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。人文科学・社会科 学系の翻訳者(日英・英日)。F1好き。 Twitter:@kaz1379/ブログ:http://entrans221.blog38.fc2.com/

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編集部注:本記事は翻訳家・平井和也氏の寄稿。同氏は、人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳をおこなっている。

本稿では、欧州問題を専門とする欧州で唯一の民間の政策研究誌であるEurope’s Worldに今月21日に掲載された論考 “Europe’s resource dilemma:Escaping the dependency trap”(欧州の資源を巡るジレンマ:輸入依存の罠からの脱却)をご紹介したい。

論考の著者マイケル・クレア氏は、米国のハンプシャー大学教授で平和学と安全保障を専門としている。それでは、ここから詳しい内容を見ていきたいと思う。

 

資源に関して島国同然の欧州

欧州は資源という観点から考えた場合、島国同然と言える。欧州は資源に対する基本的な需要を満たすことができるだけの原材料を持っていないため、輸入に頼っている。欧州は巨大な島国のようなものであり、世界的なサプライチェーンに依存している。そのシステムのどこが破綻したとしても、欧州の経済は危険にさらされることになる。欧州のこの輸入依存体質は現在も進んでおり、今後数年間に欧州の政策立案者たちが直面する最も深刻な問題の一つとなっている。

この輸入への依存体質は特にエネルギーに関して深刻だ。国際エネルギー機関(IEA)は欧州のOECD加盟国に対して、石油の70%、天然ガスの約50%、石炭の44%を輸入に依存しているという貿易構造について警告を発している。

これらの化石燃料は欧州の全エネルギー供給の約4分の3を占めており、それ以外の部分を水力、再生可能エネルギー、原子力でまかなっているが、エネルギーの輸入依存はますます深刻な問題となっている。IEAの試算では、欧州の石油輸入は2035年には78%まで増大するとされており、ガスは64%、石炭は51%という推定数値になっている。再生可能エネルギー源は増えてはいるものの、化石燃料の輸入の割合はこれからも増え続けていくだろう。

 

欧州の産業用鉱物の輸入依存

欧州の輸入依存は、多くの基本的な産業用の鉱物にもあてはまる。米地質調査所(USGS)の調査によると、欧州のOECD加盟国は世界の鉄鉱石の1%、銅の4%しか生み出していないにもかかわらず、製造業と建設業でそれよりもずっと大量の原材料を消費しているという。欧州の輸入依存はまた、コバルト、インジウム、リチウム、プラチナ、タンタル、希土類元素(レアアース)といったハイテク製品に使われる専門性の高い原材料に関しても増えている。

これらの原材料を大量に使っているというわけではないが、これらは先進的な太陽光パネルや風力タービンといった小型の電子機器や環境に優しい技術には不可欠のものだ。

 

欧州の資源輸入ネットワーク

欧州各国はこれらのものを確実に入手するために、海上貿易のルート、石油とガスのパイプライン、鉄道とトラックによる輸送、電信通信網を組み合わせ、精巧な供給ネットワークを構築したのだ。この綿密に構築された複雑なネットワークについては、英国の大手石油会社ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)が毎年まとめている「世界のエネルギーに関する統計報告」(Statistical Review of World Energy)に詳細な図解が掲載されている。

そこに掲載された図には、遠く離れた世界の各地から欧州に向かって伸びている見事な世界的な供給網が描かれている。2012年の統計によると、欧州の世界各国からの石油の輸入量はロシアから2億8,700万トン、中東から1億1,200万トン、北アフリカから7,800万トン、西アフリカから6,600万トン、それ以外を米国、メキシコ、南米から輸入したということになっている。

天然ガスの輸入については、ロシアから1,060億立方メートル、中東から300億立方メートル、西アフリカおよび北アフリカからそれぞれ120億立方メートルを輸入している。この二つの図を重ね合わせて、そこに石炭、ウラン、鉄鉱石、銅、その他の重要な原材料の輸入を表す図を加えると、欧州が島国同然であることが明らかになる。

 

欧州の輸入依存の危険性

原材料の輸入依存がこのように増大しているというのは死活的な問題であり、重要な産業分野への原材料の供給が何らかの事情により途絶してしまった場合には重大な経済危機に直面する危険性がある。原材料の輸入依存はさらに、供給地により近いところで活動している製造業者の場合よりも欧州のコストが高くなった時には、成長の妨げにもなる可能性がある。

欧州の供給網への危険は増大しているよう見える。これは欧州の輸入依存度が増していることを反映しているが、その理由の一つとして、地球温暖化と世界貿易の経路を標的にしようとする一部の国際的な勢力の力が強まっていることが挙げられる。気候変動が勢いを増す中で、ハリケーンなどの異常な自然現象の影響によって港湾施設やエネルギーのインフラに対する被害が増すだろう。

しかし、この三番目の要因はもう少し複雑な問題になる。

 

資源の供給ルートに対する攻撃の脅威

世界各国がより遠い場所からの原材料の輸入に対する依存度を増している中で、重要な供給ルートに対する攻撃の脅威は、様々な勢力にとって政治的・経済的な理由でそこに圧力をかけるための魅力的な手段になりつつある。

例えば、イランの指導者たちはペルシャ湾とインド洋を結ぶホルムズ海峡を封鎖して、イラン国内の核施設に対する攻撃を封じるという脅しを行ったことがある。ホルムズ海峡は、世界の海上輸送の石油の3分の1が通行する重要なルートだ。また、ソマリアの海賊は莫大な身代金目当てで貨物船を攻撃の対象に選んでいる。さらに、ロシアの指導者たちは政治的な譲歩と経済的な優位を確保するために、ベラルーシとウクライナへの天然ガスの供給を停止したことがある。

 

欧州の資源輸入に対する懸念

ロシアによる天然ガス供給停止は、一部のガス供給国に依存することが地政学的にリスクを伴うものであるということも明らかにした。欧州の天然ガスの約44%はロシアからの輸入に依存しているため、欧州の政策立案者の間では将来危機が生じた場合にはロシアに借りをつくることになるのではないかという懸念がある。また、欧州の政策立案者は、希土類元素(レアアース)などの専門性の高い原材料を大量に中国に依存していることについても懸念している。

原材料の輸入依存という問題があるために、欧州経済の競争力に対して疑念が持たれている。これは特に天然ガスの輸入依存体質に顕著に表れており、EU諸国はこの課題にどう対処すればいいのかというのが大きな問題だ。歴史的に見ると、島国は海軍を増強し、主要な資源供給国の事情に介入することによって、このような問題に対応してきたという経験的な事実がある。産業革命期の英国は、世界最大の海軍を築き、世界帝国の座に座ることによって資源に対する需要に対処していた。

また、日本も英国の例に倣い、強力な海軍を構築し、満州とオランダ領東インド諸島を占領した。現代の欧州はそのような対策を避けているが、NATOの船団を使って危険な海域で石油の供給を守るという議論は以前から行われている。

 

問題の根本的な解決を先送りする欧州

しかし、実際には欧州は資源輸入に対する対応策として、アゼルバイジャンやトルクメニスタンなどの新しい資源供給国との関係を築くことで供給源の多様化を図るという選択肢を取っている。2011年の半ばに策定された国際的な対話に関するEUの青写真によると、欧州は世界から孤立したエネルギー政策を考えることはできないとされており、特に発展途上国との協調をうまく実現するためには相互の尊敬と公平な関係に基づいて交流しなければならないという点が強調されている。

しかし、そこでは欧州の輸入依存の増大という根本的な問題に対する対策はなされていない。EUの戦略の弱点は優先課題において明らかだ。つまり、ロシアとウクライナの2国との関係改善(それが可能ならの話だが)によって、ロシアの対欧州の石油とガスの経路が確保され、途絶の危険性が減るのだ。また同様に、アゼルバイジャンやトルクメニスタンからの新たなガス供給ルートを構築することでロシアからの輸入依存という問題を緩和することはできるが、それは欧州の石油およびガスへの依存という問題の解決を先送りすることになる。

 

欧州にとって原子力は得策ではない

欧州は特に地中に埋蔵された頁岩(けつがん、シェール=薄く割れやすい性質を持つ泥岩)などの国内の化石燃料を最大限に活用し、原子力に再び注目すべきだと主張する論者もいる。原子力はウランの輸入に依存するものだが、その方が欧州にとって自信を深めることができると考えられている。しかし、米国と欧州の地質の違いを考えると、シェールがEUのエネルギー需要のうちのわずかな割合以上のものをまかなうことができるとは思えない。

また、近年原子炉に対する反対の声が広がっていることを考えても、原子力のシェアが増すとは思えない。そういうことから考えて、欧州の資源輸入依存の解決策は別の角度から考える必要がある。

 

欧州は代替エネルギーの導入を急ぐべき

欧州が政治的・経済的なリスクにさらされる危険を低減するには、代替的な原材料の保護、効率の向上および早急な開発を行うしかない。いつまでも化石燃料や輸入依存の原材料に頼っていないで、EUはしっかりと需要を減らし、再生可能エネルギーなどの代替エネルギー源の導入を急ぐべきだ。

この考え方は特に新しいものではないし、そのアイデアを実際に実現させるための技術も珍しいものではない。EU諸国はエネルギー効率の向上と再生可能エネルギーへの投資に関する計画を既に立てているが、日中保存した太陽光エネルギーをピーク時以外に使用するための蓄電により一層の努力を注ぐ必要がある。

また、風力の送電を促すために配電網の連結を改善することも必要だ。

 

地政学的な存在感が薄れた欧州

これらの考え方を地球温暖化対策という文脈ではなく、もっと新しい視点から検討する必要がある。つまり、欧州の地政学的な存在感が薄れてしまったという切迫した状況に対する問題意識を持つことだ。米国は現在、シェールガスとシェールオイルの技術を完成させることによって、世界における影響力を高めつつある。ロシアも莫大な埋蔵量を誇る石油とガスによって優位を獲得した。

そういう中で、欧州が米国とロシアをはじめとした他国にエネルギーの供給を依存している限り、国際的な舞台では常に不利を強いられることになる。代替エネルギーで主導権を握り、エネルギーの輸入依存を大幅に減らせば、欧州は今からでもまだ地政学的な存在感を高めることができるかもしれない。

 

豊富な天然ガスに恵まれたトルクメニスタン

以上が、Europe’s World掲載の論考のまとめとなる。なお、上に紹介した論考の中で欧州の新たな資源供給先の候補としてトルクメニスタンの名前が挙げられている。中央アジアのトルクメニスタンについては23日の寄稿でも触れているが、ロシア専門家の佐藤優氏(元外務省主任分析官)は、2007年に出版された著書『地球を斬る』の中で、次のように説明している。

トルクメニスタンは天然ガスの上に浮いている「空飛ぶ絨毯」のような国だ。(中略)天然ガスの埋蔵量は世界第4位(BP統計によると2005年の天然ガス埋蔵量は2.9兆立方メートルで世界の1.6%)なので、乱暴なことを言えば、天然ガスを販売し、その売り上げを国民にばらまくだけでも今後数十年間国家を維持していくことができる。

近年のエネルギー問題は米国のシェールガス革命が世界的な注目の対象となっており、今回のクリミア危機でも米国のシェールガスのロシアに対するカードとしての側面も指摘されている。また、これまで米国市場を念頭に開発されていた天然ガスが欧州市場に向かうようになったという状況変化も生まれている中で、これから欧州のエネルギー輸入依存体質がどうなっていくのか、大いに気になるところだ。

 

【参照資料】

Europe’s World: Europe’s resource dilemma: Escaping the dependency trap

 

Photo : commons.wikimedia.org