Kazuya Hirai

Kazuya Hirai

平井和也 | 1973年生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。人文科学・社会科 学系の翻訳者(日英・英日)。F1好き。 Twitter:@kaz1379/ブログ:http://entrans221.blog38.fc2.com/

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編集部注:本記事は翻訳家・平井和也氏の寄稿。同氏は、人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳をおこなっている。

本稿では、「Project Syndicate」という言論サイトに今月19日に掲載された論考“The Post-Russian World Order”(ポストロシアの世界秩序)をご紹介したい。

論考の著者はジャイルズ・メリットという人で、この人はEurope’s Worldという季刊誌(欧州問題を専門とする欧州で唯一の民間の政策研究誌)の編集長であり、またベルギーの首都ブリュッセルに本部を置くシンクタンクFriends of EuropeとSecurity & Defense Agendaの代表でもある。

本論考は題名からわかる通り、今回のロシアによるウクライナへの軍事介入とクリミア編入を分水嶺として、ロシアは国際社会の表舞台からは消え去り、これからはロシアなき後の新たな世界秩序の再編が始まると論じている。

それでは、ここから詳しく内容を見ていくことにする。

 

世界経済からの孤立はロシア経済に致命的な打撃

ロシアによるウクライナへの軍事介入とそれに続くクリミア危機を第二の冷戦の始まりと考えるのは間違っている。しかし、ロシアのプーチン大統領が国際法と国際社会の声を無視した結果生じた事態は、旧ソ連による資本主義との長期にわたる戦いの結果とは大きく異なるだろうが、間違いなく地政学的な波紋は旧ソ連の時代と同じくらい広範囲に及ぶことだろう。

ロシアは世界経済から身を引く覚悟であり、それは国際関係における新しい時代の到来を告げるものだ。国際社会による制裁はほんの第一歩にすぎない。制裁が科される中で、市場と銀行は不確実性という罰をロシアに与えることになり、ロシア経済は世界の貿易と投資からどんどんと切り離されていき、将来はゆっくりとした成長を強いられるか、または全く成長しないかのどちらかになるだろう。

 

国際政治の大再編の始まり

もちろん、それはロシアの終わりを意味する。さらにもっと広い意味で言うと、国際政治の大再編が始まることになり、世界のガバナンスから気候変動に至るまでの世界共通の課題に対処するための全世界の政府のアプローチも大きく見直されることになる。ただ、それが良い結果を生むかもしれないのだ。

つまり、ウクライナ情勢が、21世紀に決定的に重要な役割を担う新興国に大再編をもたらす道を開くという思いがけない結果につながるのだ。

 

BRICSの終わり

欧米がロシアから離れることによって、最初にBRICSが終わりを告げる。過去10年以上にわたって、ブラジル、ロシア、インド、中国の4ヶ国(BRICS)に加えて、近年では南アフリカもそこに加わり、欧米先進国の国力と影響力に対抗する国際政治における大きな勢力となっていた。しかし、ロシアが世界市場と多国間対話の場から姿を消すと、BRICSの首脳会談や組織はまもなくなくなるのではないか。

BRICSが公式に解消されることはないかもしれないが、ロシア以外の4ヶ国が世界各国との関係を悪くしたロシアに近づくことによって、グローバル化した経済における自らの立場をあえて損なうような行動を取るとは考えられない。

そういう中で、BRICSが世界情勢でまとまった声を代表するグループだという考え方は少しずつ消えていくだろう。

ロシアが国際社会の中で一匹狼として独断的な外交政策を展開し、ユーラシア同盟を結成することは、明らかに危険だ。ただ、もっと重要なポイントは、ロシアとBRICSを形成していた他の国々がG20における重要な新興国との関係をどう再編していくかという問題だ。

 

BRICS に代わって登場するMIKTA

BRICSの後には、メキシコ、インドネシア、韓国、トルコ、オーストラリアの5ヶ国からなるMIKTAが登場することになる。この5ヶ国の外務大臣は近いうちにメキシコで会談することになっており、そこでは世界的なガバナンスの問題が議題に上る予定だ。

この5ヶ国の代表が昨年9月の国連総会でMIKTAとして初めて顔を合わせた時には、BRICSのメンバーになる資格はないが、かと言って大国という立場になるには物足りない国々のクラブにすぎないという感じだった。

しかし、今回ロシアが自ら招いた問題がこのような状況を一変させることになるだろう。BRICSが一夜にして全く異なる性質のグループに変化することで、多くの共通の利害を有する国々のもっとずっと大きなグループが生まれる道が開けるのだ。

MIKTAが共有しているのは、急速な経済成長と国際的な影響力の増大だ。MIKTAは国家の発展について問題を抱えているが、経済のダイナミズムと革新のモデルでもあり、第二次世界大戦後の世界の機関とルールの再編に大きく関わっている。MIKTAの課題と挑戦の多くはBICS(BRICSからロシアを除いたグループ)の課題と挑戦と同じである。

 

BICSMIKTAが新しい考え方を生み出す触媒に

国際政治の複雑な環境の中で、BICSMIKTAという舌をかみそうな名前の9ヶ国のグループでは、あまりにも非効率的で機能不全に陥るという結果になるかもしれない。しかし、重要なのはロシアが多国間対話の舞台から姿を消すことによって、世界の課題に対する新しいものの考え方を生み出す触媒となるだろうということだ。

そこでポイントになってくるのが、その新しい状況がG20の再興につながるのか、それとも衰退につながるのかという点だ。ロシアがまもなくG8のメンバー資格を失うのは明らかだろう。その結果、米国、カナダ、日本、ドイツ、フランス、英国、イタリアの7ヶ国にEUを加えた元のG7に戻ることになる。しかし、その結果としてG20(ロシアの参加は継続)がどうなるのかという問題は不透明だ。G20はこれまでのところ世界の問題に対処するための枠組みとしてはいささか残念な結果しか出すことができていない。

また、経済成長している新興国を世界の主要な先進国としてG20に加えるという考え方は、目に見える結果にはまだつながっていない。

 

国際的な孤立はロシアの自滅につながる

ただ、明らかなことは、現代の相互依存がますます深まっている世界において、ロシアが国際社会から切り離されることは自滅につながるとしか思えないということだ。共産主義の崩壊から一世代が経過した現在、ロシア経済とロシア人の生活水準は回復し始めている。

しかし、ロシアの人口は急速に減少しており、エネルギーと商品の輸出に依存した貿易構造を抱えている中で、ロシアの経済と生活水準の回復は非常に脆弱なものだ。ロシア政府は、ロシアがこれまで認識していた以上に国外の情勢変化に対してもろい体質を備えているということにすぐに気づくことだろう。

 

【参照資料】

Project Syndicate: The Post-Russian World Order

 

Photo : commons.wikimedia.org